北風と太陽
ある日、北風は、自身満々で、太陽に言いました。
「やい、太陽!お前さんは、いつものどかな顔をしているけれども、
実はたいしたことないのだろう!」
太陽は、ただぽかぽかと、照らしながら言いました。
「そうだね。北風さんは、ほんとうにすごいと思うよ」
北風は言いました。
「そのゆとりのある態度が気に入らないんだ!よし、勝負をしよう!」
北風が地上に目をやると、ちょうどそのとき、
旅人が、コートを羽織って歩いていました。
「あの旅人のコートをどちらが早く脱がせるか、勝負だ!」
北風は、力んで言いました。
そして、力をこめて、強い風を巻き起こしました。
「吹き飛ばしてやる!」
太陽はニコニコしながら、北風を見ていました。
急に北風が強くなってきたので、旅人は言いました。
「おお、寒い、寒い。それに、コートが吹き飛ばされては大変だ。」
そして、コートをしっかりと着て、ボタンをしめました。
北風はそれを見て、ムッと来ました。
「せっかく俺がコートを脱がせようとしているのに、
抵抗しようって言うのか!」
あさはかな旅人に思い知らせてやろうと、北風はもっと強く吹きました。
旅人は、あまりの風の強さに、コートを手で握り締め、
襟元をマフラーのように、首に風が入らないように
さらに強く押さえつけました。
「なんて強い風だ...」
しばらく吹いた後、北風はあきらめて言いました。
「ふん。奴はコートを脱ぐ気がないようだ。
せっかく俺が親切に脱がしてやろうっていうのに。」
太陽は、ただポカポカと照らしていました。
北風は言いました。
「やい、太陽!お前さんも、あいつのコートを
脱がせようとしてみなよ。無理だと思うけど。」
「そうだね。僕はただ、ポカポカと照らすだけだから。
北風さんのように、物を直接動かす力は僕にはないんだ。」
太陽はポカポカと照らしながら言いました。
北風がどうなるものかと見ていると、旅人が言いました。
「おっ、風がやんできたみたいだな。」
旅人は、コートを握っていた手をゆるめました。
風が弱くなり、たいようがポカポカと照っていました。
旅人は、コートのボタンを外しました。
「なんだか、暖かくなってきたな。」
風もすっかりやんで、とてもいい陽気になってきました。
「いやぁ、こんなに暖かいなら、コートはいらないなぁ。」
旅人は、コートを脱ぎはじめました。
北風は恥ずかしくなって、どこかへ飛んでいってしまいました。
太陽は、ただポカポカと照りながら、
旅人のにこやかな顔を見てうれしく思いました。
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